大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

勝山簡易裁判所 昭和44年(ハ)3号 判決

原告 米田好三

被告 大森敏夫

右訴訟代理人弁護士 在里三芳

主文

被告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、原告主張の日時場所において、被告運転の軽自動車が停車したため、それに後続していた原告の自動車が急停車し、更に原告の自動車に後続していた訴外土居義夫運転の貨客兼用普通自動車が原告の自動車に追突し、そのため原告の車が一部破損したこと、事故現場附近の道路上に廻転灯が置いてあったこと等は当事者間に争いはない。

二、≪証拠省略≫を綜合すれば、次の事実が認められる。

(一)  原告主張の日時場所において、訴外土居義夫の自動車が原告の自動車に追突したために原告の自動車が破損し、之が修理に要した費用が原告主張の通りであること、及び事故直後影山巡査の指示により原告が受けた損害を被告において支払う旨の示談契約が成立したことが認められる。

(二)  そこで右示談契約は錯誤に基づくもので無効である旨の被告の抗弁を検討するに、原告は被告において前方注視の義務を怠った過失により、本件追突が起ったものである旨主張するところであるが、本件追突事故は被告自動車の北進道路上左側歩道線より稍々車道にはいった所に置いていた警察の廻転灯に被告の自動車が接触したので、被告は直ちに停車の措置をしたところ、追随進行中の原告も停車し、右原、被告間には何等の事故もなかったのであるが、原告車の更に後から進行してきた訴外土居義夫の自動車が停車中の原告の自動車の後部に追突したため、前記認定の如く原告の自動車が破損したものであり、原告は被告の自動車と安全な車間距離を保って進行していたので、被告の自動車が急停車したにもかかわらず追突事故を起こすこともなく、無事停車し得たことが窺われ、訴外土居義夫において先行の原告の自動車と適当な車間距離を保っていたならば、仮令原告車が急停車しても自分も無事停車し得て事故を未然に防止し得たことが推認し得るところであり、前記如き状況の下においては仮令廻転灯に接触のための被告車の急停車であっても、被告に前方注視義務違反の過失があるものとは認められないところであり、被告は事故直後、影山巡査が君が悪いのだから損害について原告とよいように話をせよと指示されたので、冷静に考慮せず自分に過失があったものと誤信して前記の如く原告と示談契約をしたこと、万一右のような過失がなかったとすれば、示談契約をしなかったであろうことが推認でき、右示談契約は過失の有無が重要な内容であり、右損害を支払う旨の契約は被告の錯誤に基づく無効の契約であると認められるので、右契約を前提とする原告の請求は失当である。次に原告の予備的主張である被告の前方注視義務違反の過失に基づく請求につき判断するに、前記認定の如く被告の過失を認定することはできないところであり、原告の請求は失当たるを免がれないので之を棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 小坂田力)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例